宮戸健二、河野菜摘子(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 生殖・細胞医療研究)
受精は、新しい生命の誕生には必要不可欠で、多段階の過程を経て膜融合にいたる現象である。また、膜融合は受精だけでなく、筋形成、骨形成、ウイルス感染などの様々な生命現象で起こり、胚性幹細胞もまた、分化した細胞と膜融合することで、増殖可能な幹細胞としての性質を付与することが知られている。このように様々な局面で利用されている膜融合であるが、そのメカニズムは依然として人類によっては制御不能な現象の1つである。
配偶子融合では、IZUMO1は精子側因子として知られており、最近、卵側に存在するIZUMO1の受容体JUNOが同定された。一方、膜融合に広く関わる膜タンパク質として、特徴的な細胞外構造をもった膜4回貫通型タンパク質ファミリー(テトラスパニン)が知られている。テトラスパニンにはCD9、CD63、CD81、CD82、CD151といった免疫系細胞の膜抗原として同定された分子が数多く含まれている。最も解析されているファミリー分子の1つとしてCD9が知られており、遺伝子改変マウスの解析から、受精における精子と卵の融合に卵側因子として機能することが明らかになっている。加えて、CD9は卵から放出されるナノサイズの膜構造体(エキソソーム)の主要な構成成分であることが明らかになった。ただし、CD9とCD81のダブル欠損マウスでは、肺胞内に存在するマクロファージの膜融合はむしろ亢進する。さらに、ヒト免疫不全ウイルスHIV-1の感染にはテトラスパニンは抑制的に働くことが明らかになってきた。以上のことから、テトラスパニンは、膜融合の促進にも阻害にも働くと考えられる。そこで、テトラスパニンの膜融合における役割について、促進と抑制の両方の面から考察したい。
(参考文献)
1) Ohnami N et al. Biology Open, 7, 640-7, 2012.
2) Miyado K et al. Proc Natl Acad Sci USA, 105, 12921-6, 2008.
3) Miyado K et al. Science, 287, 321-4, 2000.