2015年8月11日火曜日
マウス精子の構造と機能におけるチューブリンポリグルタミン酸化の役割
チューブリン翻訳後修飾の1つであるポリグルタミン酸化は繊毛・鞭毛の構造および機能における重要性が示唆されている。これはチューブリンC末端尾部ドメインにポリグルタミン酸側鎖が付加される翻訳後修飾であり、Tubulin tyrosine ligase-like (TTLL) ファミリーのタンパク質によって触媒される。我々はマウスの精子に関するこの翻訳後修飾の役割を明らかにするため、チューブリンポリグルタミン酸化酵素の1つであるTtll9を欠損するマウスの解析を行ったところ、Ttll9欠損マウスは形態的には正常だが雄性不稔を示すことが明らかになった。Ttll9欠損マウスでは精子数の減少と精子ポリグルタミン酸化レベルの低下が見られたが、光学顕微鏡レベルでは正常な形態の精子も多数観察された。興味深いことに、電子顕微鏡を用いた解析から、Ttll9欠損マウス精子鞭毛は基部側では通常の9 + 2構造を示すが、より先端側では9本の周辺ダブレット微小管のうちダブレット7のみを選択的に欠損することが明らかになった。運動解析からTtll9欠 損マウス精子は前進運動性の低下を示し、その原因は鞭毛運動の一時的な停止にあることが示唆された。この停止は鞭毛がマウス精子頭部のフック状構造の方向と逆向きに屈曲した状態で最も高頻度に発生した。これはフックと逆方向への屈曲は可能だが、フック同じ方向への屈曲が困難になっていることを示唆している。マウス精子においては、フック方向への屈曲にはダブレット7が特に重要な役割を果たしていると考えられることから、Ttll9欠損マウス精子の運動性低下には軸糸ダブレット7の異常が関与していることが示唆される。