2015年8月11日火曜日

マウスフリーズドライ精子における宇宙放射線の影響

若山清香、水谷英二、若山照彦(山梨大学 生命環境学部)
矢野幸子(宇宙航空研究開発機構 宇宙環境利用センター)
笠原春夫、長田郁子(有人宇宙システム株式会社 利用エンジニアリング部)
嶋津 徹、鈴木ひろみ(一般財団法人日本宇宙フォーラム 宇宙利用事業)

 現在、火星や小惑星に人類を送り込む次世代有人宇宙船が複数の機関で計画されており、将来、人類は本当に宇宙で繁栄するようになるかもしれない。各国の宇宙開発機関は生殖に対する宇宙環境の影響を調べるために様々な実験を行ってきた。その結果、イモリやメダカ、ニワトリでは無重力や宇宙放射線は胚の発生にほとんど影響しないことが明らかとなっている。しかし肝心の哺乳動物の実験では飼育や、初期胚の実験の難しさなどから多くが失敗に終わり、近年ではあまり行われなくなっていた。
私たちは、JAXAが公募していた国際宇宙ステーション「きぼう」利用実験計画に、フリーズドライ精子を宇宙で長期間保存し、子孫への宇宙放射線の影響を調べるというテーマで応募した。この方法であれば精子の室温保存が可能であるため、打ち上げと回収時に冷凍庫が必要なく、後は宇宙ステーションで長期間保存するだけなので技術の習得も、長い作業時間も必要ない。打ち上げた精子は宇宙ステーションの冷凍庫で最長3年間保存してもらい、回収後に精子のDNA損傷度や産仔への発育率、および網羅的遺伝子発現などを調べ、宇宙放射線の生殖細胞や子孫への影響を調べる。
この計画は低リスク、低コスト、哺乳類の生殖実験としては世界初ということで2009年に「候補」として採択され、膨大な予備実験を経て2011年に打ち上げ決定となった。そこでロケットの打ち上げスケジュールに合わせて60匹以上のオスから約2000本の試料を作成し、すべてのロットチェックを行って出産成績の最も高い打ち上げ用の試料(4系統から12匹を選び、異なる保存期間で回収するため3箱に分けた)を厳選した。それらの精子は2013年8月4日、H2Bロケットにて予定通り打ち上げられ、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」内の冷凍庫で保存されている。2014年5月には第1回目の精子が地球に帰還し、翌月それらの精子から世界初の宇宙保存精子由来のマウス(宇宙マウス)が誕生した。2回目の精子の帰還は宇宙保存開始から2年後、3回目は3年後を計画しており、宇宙放射線に暴露された期間が生殖細胞へどのような影響を与えるのか明らかにする予定である。本会では予備実験で我々が行った様々な条件検討の結果と、第一回目の帰還精子を用いた顕微授精による産子作成実験の結果について報告する。