太田邦明、田中 守(慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室)
【目的】
ARTにおいて良好精子の評価は非常に重要であるが現状の評価法では精子妊孕能の評価は難しく、非侵襲的な精子機能評価法の開発が急務である。これまで我々はV-ATPaseのサブユニットであるa2Vacuolar ATPase(a2V)に着目し、マウスにおいてa2vが受精能獲得精子の先体に局在し、精液のPHおよび免疫環境を制御することを報告してきた。今回、男性不妊および健常者の精子および精漿を用いて、精子機能へのa2Vの関与を明らかにすることを目的とした。
【方法】
倫理委員会承認と説明と同意を得た上で不妊男性精液(Inf群)と健常精液(N群)の精子を用いて、a2V発現をreal-time PCR、 western blotにより解析した。2群の精漿中のcleaved a2v(a2NTD)をELISAで、cytokine/chemokineをマルチプレックスにて網羅的・定量的に解析した。またN群を比重遠沈法によって、運動精子と非運動精子に分離後、a2V発現と精子内局在をwestern blotと蛍光免疫染色で調べた。
【成績】
a2VのmRNA・タンパク質両者の発現レベルは、N群に比べてInf群で有意に低かった.さらに、a2Vの分解産物であるa2NTDおよび受精過程において重要な役割を担うGM-CSF、 G-CSF、MIP-1、MCP-1α、TGF-βはいずれもN群に比べてInf群ので有意に低くa2NTDとそれらは有意な正の相関関係が認められた。また、a2vは運動精子群に強く発現し、先体に局在することが確認された。
【結論】
妊精子および非運動精子でa2Vの発現が低く、さらに不妊精子のa2V発現量を反映する精漿中a2NTDが低いことが確認された。また精子a2Vは運動精子の先体に局在する事が確認された。本研究よりa2Vをターゲットに今後解析を行うことで不妊精子の病因に迫ることが出来ると考えられる。