2015年8月11日火曜日

精子残存ヒストンの機能解析とその生理学的意義の解明

牧野吉倫、岡田由紀(東京大学分子細胞生物学研究所 病態発生制御研究分野)
白髭克彦(東京大学分子細胞生物学研究所 ゲノム情報解析研究分野)
朴 聖俊・中井謙太(東京大学医科学研究所 機能解析インシリコ分野)

 多くの哺乳類の雄性生殖細胞は、減数分裂後にヒストンが消失しプロタミンに置換されることでクロマチンが高度に凝集する。これは精子の妊孕性獲得に必須の現象であるが、一方で少量(ヒトでは約10%、マウスでは約1%)のヒストンが依然精子核に残存しており、その生理学的意義については未だ結論が得られていない。
 本研究では精子LS-MS解析で同定したヒストンバリアントH3.3とH2A.Zについて、それらの精子ゲノム上の局在と転写調節との関連性について検討した。その結果H3.3とH2A.Zは、転写活性化マークであるH3K4トリメチル化を伴って、低GC%・低DNAメチル化で特徴づけられる転写開始点近傍に濃縮していたが、減数分裂後精子細胞における遺伝子発現との相関は顕著ではなく、他の役割が示唆された。そこで受精卵遺伝子発現との相関を検討した結果、H3.3・H2A.Z・H3K4トリメチル化の組み合わせは受精後2~4細胞期で転写される遺伝子群と最も相関が高く、一方転写抑制化マークであるH3K27トリメチルを転写開始点近傍に持つ遺伝子群は、この時期の遺伝子発現が低いという現象が見出された。従って、成熟精子におけるヒストンの局在(=エピジェネティック状態)は、受精後の転写状態を反映していると考えられた。